ロシア民謡
Russian folk song

ロシア民謡「山にはカリーナ」による変奏曲
Variations on Russian Folk Song “Na gore-to Kalina”

この曲は古いロシア民謡で、「山にはカリーナ、里にはマリーナ」と歌われる農村の若人たちの踊りの歌である。カリーナは夏から秋にかけて森で真っ赤な実を房状にたわわにつけるスイカズラ科の低木で、愛称をカリンカという。マリーナは木苺のことで愛称はマリンカである。有名な民謡の「カリンカ」は、可憐な赤い実のカリーナやマリーナを花嫁にたとえて歌う婚礼歌である。
この変奏曲は、最初は女性たちのゆっくりした輪舞で始まり、そのあと次第に男性たちの早い踊りへと続いていく。赤く色づいたカリーナの実はややすっぱいが、なんと、その種は球状ではなく、平べったくて白い「ハート型」とのこと!

ロシア歌曲「やなぎ」と「よろこび」
Russian Songs “The Willow” and “The Joy”

ロシアでは、世俗的な歌謡「ビェースニャ」に対して、伴奏付の芸術歌曲を「ロマンス」という。この言葉の語源であるスペイン語のromanceは、15世紀ごろからスペインで歌われた世俗的なバラードを意味したが、18世紀にフランスにもたらされ、叙情的な恋の歌を意味するようになる。ロシア語の「ロマンス」はこのフランス語から借用されたものである。従ってこの言葉が輸入された当初は、内容の如何を問わず、フランス語の歌詞に作曲された歌曲が「ロマンス」と呼ばれたが、19世紀に入ってから多くの国民楽派作曲家が歌曲を作るにつれ、現在のように芸術歌曲一般の意味で用いられるようになった。
「やなぎ」は、エシュペイ(A.Eshpay)作曲によるもので、不幸な恋を歌った歌曲。ロシアではとてもポピュラーで、恋に悩む女が“美しさ”と“幸福”はどちらがいいの?と柳に聞くと、柳は“美貌”は色あせるもの、“幸せ”は永遠のもの!と答えるという歌である。「よろこび」は、作者不詳の19世紀の歌曲であるが、いまだに合唱曲として皆に親しまれている。

ロシア・ジプシー歌謡「黒い瞳」 (1843)
Russian Gypsy Romance “Dark Eyes”

この曲は、ペテルブルク暮らしのウクライナ人エヴゲーニイ・グレビョンカ(1812-1848)が作詩したもの。民謡歌手でバス歌手のフョードル・シャリャーピン(1873-1938)が世界中を公演(訪日は1936年)して回った際に熱唱したことにより、世界で最も有名なジプシー調のロシアの歌になった。
ジプシー(ロマ、ロシア語ではツィガーン)がロシアに入ったのは15-16世紀頃といわれているが、歌や踊りを生業としている彼らは18世紀後半には町のレストランにも出演するようになり、既存の詩にジプシー風のメロディをつけてロシア語でも歌ったので、しだいにロシアの中に<ジプシー・ロマンス>という人気歌謡ジャンルが形成されていった。
この曲は、黒い瞳のジプシー女の恋の虜となった男が、俺の人生は狂ってしまったと嘆き悲しむ歌である。

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