エクトル・ベルリオーズ (1803-1869)
Hector Berlioz

エクトル・ベルリオーズはフランス南部ドフィネ地方のラ・コート・サンタ・アンドレに医者の長男として生れた。少年時代よりフルートや声楽を習ったが、16歳より2年間熱心にギターの勉強をして、すぐに先生を上回る腕前に上達した。1821年18歳で医学修行のためにパリに行かされたが、この職業に関心を持つことが出来ず、自活のためにギターを教えるようになり、作曲家の道を志して1826年パリ国立音楽院に入学した。1830年待望のローマ大賞を受賞し3年間ローマに留学する。そこで彼はメンデルスゾーンと知り合い、毎晩のように仲間と近くの町や村へギター片手にセレナーデを流しに行き、村人達と一緒にサルタレロを踊って楽しんだ。1832年パリに戻った彼は本格的作曲活動を始めるが、あまり認められず、むしろ新聞の音楽評論の仕事で生活の糧を得ていた。住まいは屋根裏の一室で、一脚の椅子とギターを置いた机、これだけが彼の作曲と評論の仕事をするためのもので、彼が所有する家具のすべてであった。彼は後に金管楽器の拡充によって管弦楽の表現効果を飛躍的に高め、イデー・フィクス(固定観念)の使用による標題音楽の手法を提唱して、リストの交響詩やワーグナーの楽劇への道を開いたのであるが、なんとその60余年の生涯に彼自身が弾奏した楽器はただ一個のギターだけであったということは、一般の評伝の中では全く無視されている。
後世の作曲家に大きな影響を与えた理論書「近代楽器法と管弦楽法」では、ギターとマンドリンのために5頁を費やして記述しており、「ギターは自分自身が弾けなければ良い曲を書くことはまず出来ない」「マンドリンの音色には何かを訴える独特のオリジナリティーがある」という言葉を残している。

舞踏会 (幻想交響曲 作品14 第2楽章) (1830)
Un Bal (Symphonie Fantastique, Op.14, 2mov.)

「幻想交響曲」は「ある芸術家の生涯のエピソード」という副題を持ち、1.夢想と情熱、2.舞踏会、3.田園の風景、4.断頭台への行進、5.魔女大集会の夜の夢、の5楽章からなっている。1827年イギリスのシェークスピア劇団がパリ公演を行ったが、彼はその主役女優ハリエット・スミスソンに激しい恋をした。その熱烈な思いを標題音楽として表現した作品。ひとりの芸術家が恋に破れてアヘンを飲んで死を図るが、それが致死量に達しなかったためにさまざまな幻覚を見るという構成である。第2楽章はにぎやかな祭の舞踏会での彼女との出会いを表わしており、はじめその美しさに見とれ、だんだんと恋の熱情が深まっていく様子が美しいワルツのメロディに乗って展開していく。

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